藤野千夜(Chiya Fujino)
- 行と行の間に距離があるような書き込まれ方だと思う。
未刊
「薬屋事件」
「父の帰宅」
数年前に病死した父親が帰ってきたという知らせを聞いて訳がわからないまま実家を娘が訪れるところからこの小説は始まっている。玄関の母親の横には本当に本物らしい父親がいた。娘は「ホン・・」と「本当」か「本物」か言おうとしてやめ、「おかえりなさい」ときごちなくもどうにか言う。
父親が死んでから、就職を機に娘は家を出て結婚もした。兄も結婚し実家で母親と同居している。母親は娘がもう何年も経ったのだから捨てろといっても、父親の物を取っておいていた。
そういうことはよくあると思う。「気持ちとしてとっておきたい」ということ。でもこの小説の中では、母親に「ほーらとっておいてよかった」と娘に勝ち誇ったように言う機会を与えるような状況を作り出している。
- 亡くなった父親が実家に帰ってくる。それをなんとなく自然に受け入れてしまう家族たち。「ほら(父親の衣服とかを)捨てなくってよかったでしょ」と勝ち誇るように(死んでから何年も経ったのだしいいかげん捨てろと言っていた)娘に告げる母親がおかしい。
- 兄嫁が家族・親戚達と父親のシーンにうまく居合わせ一緒に涙をながしたりするのを、兄が結婚したのは父親の死の後で、兄嫁は父親の顔もしらなかったのに、ドラマの中の人物きどりなのかなと観察しているが、べつにいやみを言ったり責めるわけでもない主人公(就職でもう家を出ていた娘、結婚もしている)は、対面の次の朝父親がまだいるのを確認してジーンとする自分に気づき、兄嫁より自分の方がドラマのようなシーンに弱いのかと自省したりする。
- 状態としては、父親は死んでいるのに死んでいないというものなわけで、会話なり考えのなかで外から見ればおかしなことが自然と発せられたり受け入れられたりしてしまう。例えば、父親の遺骨が納められている墓に家族で(父親も含めて)墓参りをするシーン。
- さて、小説としてどうこのおかしな現象にどうけりをつけるのかだけれど、姉弟が両親のいないパラレルワールドに迷い込む『ルート225』の時と同じように、作者はなんともなしにスーッと物語を終わらせる。普通に考えれば強引だとかリアリアティがなにということになるのだろうが、こういう終わらせ方は小説独特のものとしてあるリアリティがあるし変な感じもしなくて、「スーッと(終わる)」というのはその読後感をも表現しているのかもしれない。
- 家の中の廊下にある少しの段差。主人公の携帯に決まってかかってくる複数人からの間違い電話。
「ハローウィーン」
「愛の手紙」
ルート225
「ルート225」
- とても引き込まれる。この頃読んだ小説の中で一番の引き込まれ度かも。藤野千夜の小説の中に出てくる、中学生だとかの高校生の挨拶の仕方がとてもいい。チースとかウィッスみたいな。洗練されたマンガとかにもありそうな。そして、登場人物の中学生とか高校生がすごく賢明な感じにいつも惹かれる。
- 「」で括られた会話の後にモノローグのようなものが引っ付いていて、それがかなりおもしろいし、かなりこの一の小説の色を作っているところだと思う。でも、そのモノローグだと思っていたものに、相手が会話で答えていたりして、おもしろい。どういうことなんだろう。
- タイトルのルートは、読む前、「route=道」だと思っていたが、最初の章が「ルート196」となっているのを見て、「root=√」でもあるのかなと思った。14*14=196、15*15=225。象徴的に国道が出てくるので、そちらの意味もあるのだろう。
- 「ていうか私たちって、ずっごけ三人組か?」というフレーズがあって確かにそんな感じもする小説。
恋の休日
- (単行本) 99年07 月(文庫) 02年08月
- 解説(文庫) 角田光代
「恋の休日」
「秘密の熱帯魚」
- 初出 96-08
- 「昨日の夜のことは忘れないで。甘い響きの言葉だけが不思議と耳から離れなかった。もちろん、ただの冗談なのだとしても、オザキにはなにかがあり、自分にはなかったかもしれないと思った。そんな気がした。」
夏の約束
「夏の約束」
おしゃべり怪談
- (単行本) 98年 (文庫)01年12月
- 解説(文庫) 池田雄一
「BJ」
「おしゃべり怪談」
「女生徒の友」
- 初出 『ユリイカ』 98年6月臨時増刊 太宰治特集号
「ラブリープラネット」
- 「ラブリープラネット」もまたよかった。外で携帯から自分の家の電話の留守電に「パーカ」「嫌われもの」だとかメッセージを入れて、家で再生して苦笑するシーンがある。「もう少し上手い対応ができたような気がしたけれど、結局のところ、しくじったものは仕方ないと思った。許容範囲だとホリイが思えばそれはそれでいいし、なんか気味悪いから逃げると言われれば、そうですね、と頷くしかなかった。自分の歪みをなるべく人に押しつけたくはなかったから、去っていくなら止めるわけにもいかなかった。歪みがあることはずっとわかっていたから、その点にだけはいつも留意すべきだと考えていた。」
少年と少女のポルカ
- (単行本) 96-03 (文庫) 00-03
- 解説(文庫) 斎藤美奈子
「少年と少女のポルカ」
「午後の時間割」
CategoryRaw(読み書きINDEX)
IndexBungei, WhosWho