柴崎さんの小説を交差点にしながら

いくつかのおすすめ

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彼女の部屋

藤野千夜の短編集 『彼女の部屋』 なんてどうかなー。柴崎さんは日常的なことを書くのに非日常的な・ある意味不自然な仕掛けを用いることがある(「ショートカット」のワープだとか、「青空感傷ツアー」のめくるめく移動だとか)。藤野さんはこの本の中の「父の帰宅」という小説で、ある家族のもとに死んだはずの父親を帰宅させてみせる。家族たちは、それぞれなんかおかしいと思いながらも、それを自然と受け入れてしまう。しかし実際には、日常とほんの少しのずれがあるわけで、そこにいつもは意識されなかった様々な感情・言葉が現れ出てくる。それは、何度もそれまでも言われてきた言葉である時もある。例えば次のような母親の言葉。

「ほら(父親の衣服とかを)捨てなくってよかったでしょ」

母親はいつも(日常的に)娘から死んでから何年も経ったのだしいいかげん捨てろと言われてきたのだった。

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And Then Nothing Turned Itself Inside-Out

柴崎さんの「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」に次のような部分があります。

ゆったりと、なんの苦もなく運転を続ける恵太は楽しそうに笑っていた。コロ助も笑って、それからルリちゃんも笑って、そのバンドの話をしてくれた。/ぼくもその曲が今年聞いた中でいちばんいい曲に思えた。/君が笑ったらぼくも笑ったような気分だ、君が泣いたらぼくは最悪な気分だ。その通り。

この曲は何って曲なんだろうと、歌詞が英語でどうなるか想像して検索してみた。はっきりとはしないが、Yo La Tengoの"The Crying of Lot G" という曲があてはまりそうだ。

The way that I feel when you laugh is like lauging /The way that I feel when you cry is so bad

って一節が出てくるから。And Then Nothing Turned Itself Inside-Out [2000] というアルバムに収録されています。

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プレーンソング

柴崎さんの小説の読者にお勧めの小説です。保坂和志『プレーンソング』 [1990] 一見だらだらと生活しているように見えるが何か大切なものをそれぞれ持っているような若者たちのお話。次のようなフレーズが、個人的に胸に響きました。

…よう子が言葉にしなかった考えやよう子自身でもうまく言葉にできないでいる考えがあればそれも聞いてみたいと思い、それからそういう考えをよう子はいつ形にしようとしているのか、猫にご飯を置いて回りながら形にしようとしているのだろうか、そんなことも知りたいと思った。それで浮かんできたのがアキラの写真で、よう子が猫のご飯を配って回りながらいろいろなことを考えている様子が、アキラの写真に写されているのかもしれないと思い、そうなるとアキラがこれまで撮ってきたよう子の写真を見てみたくなった。


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