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[ 読書メモ/記録:2008年01月分 ]


目次

  • 千葉正樹『江戸城が消えていく―「江戸名所図会」の到達点』 amazon
  • ケルアック『オン・ザ・ロード』 新訳
  • 保坂エッセイ,気になったのは「緊密なコミュニケーション空間」ぐらいか(誰かが検証してほしいはなしだった).

竹森俊平『1997年――世界を変えた金融危機』

  • 東アジア通貨危機が起こった1997年,日本で金融危機(金融機関の大型倒産)が起こった1997, 1998年
  • 1997年は,世界経済の流れの節目となる年.この年を境に世界経済がどのように変化したか? その考察が展開されるのが本書.
  • 「一見正常な経済の背後に潜む危険が明かになった年」,その後,国際資本の流れが大きく変化
  • 政府はその危機にどのように対応したのか(できなかったのか)?=第1章 [危機の内実~「質への逃避」を生んだ市場心理]
    • 日本の金融危機に関しては日本政府,東アジアの通貨危機に関してはアメリカ政府/IMF,がどのような対応をしたか
  • 市場心理について,「ナイトの不確実性」という問題
  • 第2章 [危機を読み解く~ナイトの不確実性」というブラック・ホール]
    • 「ナイト的な不確実性が,いかに経済運営にとって厄介な問題となるか」を見ていく/「一見正常な経済の背後に潜む危険」と,それが現実になった場合の「危機管理」とは具体的にはどういうことか,を経済理論の立場から考える(1~4節で,「ナイトの不確実性」についての説明,5節~7節で具体的なはなし)
  • もともとのフランク・ナイトの議論
  • リスクと不確実性の区別:「結果についての確率分布が未知である『ナイトの不確実性』と,結果についての不確実性が確率分布が既知であることによって限定されている『リスク』」(グリーンスパンによる整理より)
  • 「ナイトの不確実性」は,理論的な推測もできず,過去のデータに基づく統計的な推測もできない(真の)「不確実性」.
  • (真の)不確実性の持つ経済的な意義:「不確実性の世界に挑戦することで初めて,起業家は利潤が得られる」
    • 対して,客観的な判断が可能な事業は,長期的には,利潤は存在しない,競争相手が次々と参入するから/「客観的に確率を予測できるリスクについては,保険のようなリスク回避の手段が成り立ち,しかもそのリスク回避の手段は市場を通じて入手できる」,「また,リスク回避の手段の価格は,市場における競争によって利潤を生まない適正水準に落ち着く」から
  • 「夢を追う」存在・職業としての起業家,「利潤」の社会的な意味/「「起業家」という特別なタイプの人種のもっとも本質的な行動は何かといえば,「新しいこと」への挑戦である.「新しいこと」,過去に類例がないことに起業家は挑戦する.「不確実性」と真正面から対決するのである.そして「不確実性」と対決する報酬として,起業家は「利潤」を手に入れる」
  • しかし,起業家が全体として正の利潤を実現するのは難しい? 平均的利潤はマイナスなのではないか,という議論:「もともとビジネスの成果を過大に見積もる楽観的な正確の者が,起業家という商売を選ぶ」わけだが,「もし,彼らがビジネスが成功するチャンスをあまりに高く評価しているなら,過剰な投資をつぎ込んで全体として損失を被る」
  • 成功者は一部に限られている.だが,(平均して損をしている)「起業家の犠牲によって,生産活動が可能に」なっている=「生産活動は「不確実性」を前にして,一部の人間,つまり起業家が取る「強気」の行動があって初めて可能になる」
  • このようなナイトの議論には,人間の心理が行動に影響を与えている,という視点がある.つまり,「経済活動における心理の重要性」についての理解がある(そしてその経済活動には「不確実性」が内在している).この本は,このような視点に基づいて90年代以降の世界経済を捉えていく.「バブルに象徴される過剰な「強気」と,「金融危機」や「失われた10年」に象徴される過剰な「弱気」が交差した時代」「1997年の東アジア危機に端を発する,数年間の国際金融市場の混乱」において,「「強気」から「弱気」への心理的変化が決定的な役割と果たした」
    • 「経済活動における心理の重要性」というような視点は,経済学の「標準」が発展していく過程で欠落していった/第2章3節で扱われる,ナイトと同じシカゴ学派の経済学者フリードマンは,「不確実性」の存在を否定し「予測」という一点に注目する経済学を発展させた
  • 最近の政策論議では「ナイトの不確実性」は(ナイトのもともとの議論から離れ),「過度のリスク回避の蔓延」と結びつけられ,「リスク回避のための極度に慎重な態度を指す」もの(たとえば,「最悪のシナリオ」に基づいた判断)として考えられている
    • 「「ナイトの不確実性」の下で,われわれが実際にはどのように行動するかを明かに」して,ナイトの認識を一歩進めたエルスバーク.彼は,実験に基づき「「不確実性」の下では,われわれは悲観的な予想にたって行動する傾向を持つ」と導き出した.エルスバークによって,一度は経済学の「標準」においては,経済学史上の「異説」として退けられかけた「ナイトの不確実性」という考えが,経済学の議論に上る機会を開いた.
      • その事は認めつつも,著者は,「不確実性の下では「最悪のシナリオ」を考慮しながら悲観的に行動するというのは,かならずしも人間の一般的な性向ではない」こと,ナイトのもともとの洞察(そこには,経済学が客観的な判断を下せない部分が経済活動には含まれるという考えもあった)を忘れてはいけない,ということを強調している.
  • 市場心理,投資家の心理,ある状況下における人間の一般的な傾向
  • 夢が危険性へと変わり,安全性が追求される流れ(「質への逃避」が起こった)
    • 投資家の心理の変化・・・「東アジア通貨危機に端を発する市場の攪乱が投資家を震え上がらせ,98年には「質への逃避」が世界規模で発生した.つまり,投資家はデータの蓄積のないリスクの高い資産を棄てて,安全性の高い資産への持ち替えを図ったのである」.
  • 「「消極的」な態度が経済全体に浸透して,その結果,経済活動の萎縮が起こっている時には,政府か中央銀行か,誰か「積極的」な行動を取るリリーフ役が現れなくては不況の悪循環が生じる.それがケインズ主義だけでなく,現代のマクロ経済学の根底にある思想だ」 p.152
    • 「ナイトの不確実性」の下で,経済の安定が脅かされ萎縮につながるような場合には中央銀行の積極的行動が不可欠(中央銀行が「最後の貸し手」になる)
  • ☆ しかし,「ゴール・キーパー(最後の貸し手)の必死の飛びつきによって辛うじて世界経済のメルト・ダウンが防げるという状況は,あまりに危なっかしい」&「連銀の積極策が,アメリカの「住宅バブル」や「経営収支赤字拡大」のような危険要素をもたらしたこともまた事実」
  • ということで,他の問題解決方法はないか? 97年以降の世界における,「ナイトの不確実性」にどのように対応したのか.民間による解決法,政府による解決法をそれぞれ取り上げる=第3章 [危機の教訓~世界経済の安定化は可能か]
  • ○民間・・・自生的な秩序と,それを援護する役割を担う「公」
  • ○政府・・・アメリカ.外交の失敗と経済の成功.その両方に一貫する方針=「悲観主義を吹き飛ばす積極性」
    • 「「ナイトの不確実性」を前にした行動方針として,エルスバークが見出した消極性という一般的傾向とは逆の行き方.強気を全面に出した行き方」と採る

  • 「ナイトの不確実性」は,変わりやすい市場心理を的確にとらえた考え方,「危機は例外ではなく,一見正常とみえる経済活動も,実は危機の温床の上で演じられる微妙なバランスのゲームだということを示唆」
  • 発展途上国(特に東アジアの国々)が国内投資を削って,対外的な貯蓄を増やしている ー> アメリカの「経常収支赤字の拡大」=「対外借り入れの膨張」/これは,97年の東アジア金融危機以降の現象
    • まとめると=「97年をきっかけに世界の資本の流れは大きく変わった.それまではエマージング・マーケットともてはやされて,世界中から資本を集めていた東アジアの新興工業国は,この年を境に海外から借りなくなった.それどころか,海外に貸し出すようになったのである.なぜか.それは世界経済にとって良いことなのか.これもまた,本書の重要なテーマ」
  • 97年以降,東アジア通貨危機への対応で失敗した国際通貨基金(IMF)は権威を失墜(IMFは大戦後,国際資本の流れを管理し,危機管理にあたって主導的な役割を果たしてきた機関だった)
  • 積極主義/消極主義
  • 日本では97, 98年の政策の失敗によって,その後の政治の流れも変わった(当時の首相は橋本)
  • バブルも「真の不確定性」が原因で起こる現象(資産の実勢価格が分からない状態で発生するわけだから)/「IT(情報技術)やグローバル化など,類似の経験が過去に少ない要因が契機となってバブルが発生するのはそのため」/崩壊前にバブルかどうかは判定不可能? pp.98-99
  • 「ナイトの不確実性」はいろいろなところに存在する
    • 「イノベーション,新技術,グローバル化といった新時代を象徴する出来事から,はては一般の生産活動まで」 p.107
    • 「わが国の場合,97年,98年における経済の転覆につながる「不確実性」をもたらしたのは,外国のヘッジ・ファンドでもなければ,為替投機家でもない.それは内なるもの,日本的な組織の闇である」 p.32
  • 流動性の問題(「銀行業は,債権者(預金者)が一度に預金の支払いを要求した場合には,それに応じられないという意味での「流動性のリスク」を常に抱えている」)
  • 「流動性(現金)」への選好の高まりによって,マーケットから流動性(現金)が消える現象
  • 流動性の危機(こちらは,国際的な賃借に発生するもの)
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