• 私の興味は基本的にポピュラーミュージックだがこの頁では、他の種の音楽について扱った文献も扱う




こちらでも書いています

  • 音楽関係の本については,下記と重なる部分もありますが,上記リンク先 メディアマーカーでも書いております(音楽関連の本についてのみのRSSも配信しております).

福井一『音楽の生存価―survival value of the music』

バーダマン・村田『ロックを生んだアメリカ南部』

  • 【ジェームス・M・バーダマン, 村田薫著, 日本放送出版協会, 2006, 頁数=302pp】 →amazon
  • 村田氏による「あとがき」によると「本書は共著だが、章を分担して執筆したのではなく、ジェームス・バーダマンが作った骨組みにわたしが肉付けをするようなかたちで書き上げた」とのこと。(村田氏とは早稲田の文学部での同僚らしい)バーダマンによる南部に関する本は既にいくつも出ているようだ(『わが心のディープサウス』, 『アメリカ南部―大国の内なる異郷』『ふたつのアメリカ史―南部人から見た真実のアメリカ』など)
  • 副題は「ルーツ・ミュージックの文化的背景」。タイトル通り、「ルーツ・ミュージック」と現在言われるような音楽が生まれてきたの「南部」とはどのような場所であったか、どのような人々がどのように生活を送っていたのか、どういう歴史があるのか、というような点で学ぶところがあった。南北戦争以前と以後の違いとか、ニューオリンズという街の特殊性(「都市をゆりかごに生まれたジャズ」)とか。
  • そうなると、そういう当時の社会状況についてもっと学んでみたいと思わされるのに、参考文献のリストはあるものの巻末にまとめてずらずら挙げられているだけで、部分部分で典拠を示すとまではいかなくとも、章毎のリストにして欲しかったな。
  • 部分の記述としては、ブラックの人の消費に対する意識について書かれていたのはおもしろかった(p.72, p.80)。
    • 「……デルタの黒人たちは買い物をどのように考えていたのか。/奴隷解放後に続く一〇〇年の中で、黒人は、購入した商品を楽しむことで、従順な働き者というイメージを崩すことができることを発見したのだ。商品は実に簡単に人の持つ雰囲気を変える力がある。特に服装ほど効果的なものはない。長い間白人が黒人に与えた衣服は、洗いざらした木綿の肥料袋を手縫いした、まさに労働服であった。黒人が粗末な服を着ていれば、白人の優越感は一目瞭然であったからだ。しかし、黒人がかならずしも白人のお仕着せだけですませたわけではない。たとえば、奴隷制時代に南部を旅行した人が、黒人の服がさまざまな模様や生地を使い、白人には奇妙と思える色彩の取り合わせを楽しんでいるようだと日誌などに書き残していることが少なくない。/生活は貧しさの中で停滞していたが、黒人たちにとって衣服は自分を雄弁に語ってくれるものだったし、違った服を着ていれば人の目にとまった。若者たちにとってしゃれた服装、特に手縫いではない店で購入した服を着ると、魅力的に見えるし、一人前であることの証ともなった。時代は下って一九二〇年代のことになるが、デルタの黒人で、そういうことをだれよりも気にかけていたのはブルースのミュージシャンたちだった。上等な服や宝石は、黒人共同体における彼らのステータスを高めると同時に白人に依存しない生き方を示すものでもあった。さらに、ブルースの歌詞によく出てくるように、男女を問わず、服を買う金を持っているということは恋愛関係で大きな意味を持った。恋人に服やお金や宝石を与えることで自信と優越感を感じるさまは多くの歌に出てくる。逆に、恋敵にプレゼントで恋人を奪われ、嘆きで終わる歌も多い。……」(p.70-71)
    • 「ブルースはまた洋服や宝石、自動車など、富や優雅さを象徴するものへの憧れを歌う。昔の生活を郷愁を込めて歌うことはない。たとえば、今日でも多くのカントリー音楽の歌詞によく出てくる生まれ故郷とか、素朴な生活への思いなどはほとんどない。ブルースの歌い手たちは、できることなら、流行の最先端をゆく、わくわくするほどおしゃれなものを手に入れたいと願うのである。現在のブルース・マニアは「本物の」ブルース・アーティストといえば、朽ちかけた木造家屋のポーチにつなぎの作業着姿で座っている黒人農夫を思い描くだろう。休日だけ近所で歌うブルースマンにはそういう人もいた。しかし、特に放浪ブルースマンの多くは、彼らが回る田舎の人々よりずっといい服を着て、おしゃれに憂き身をやつした。虚栄もあったろうが、上等な生地の派手な服や光る革靴は、ブルーに沈みがちな彼らの気持ちを引き立たせてくれたにちがいない。」(p.82)
  • (一八世紀末から一九世紀初頭にかけて盛んだった)「野外礼拝[キャンプ・ミーティング]」が現在のアメリカで行われる大規模なイベントに残している影響。「YMCAやYWCAの野外活動はいうまでもなく、野外音楽フェスティヴァル、地域コミュニティのイベント、夏休みの子どもたちのサマーキャンプなどに野外礼拝の痕跡が残っている。こういう場で味わう一体感は何にも替えがたいと思う人は少なくない。」(「ゴスペル―魂の高揚」 p.173)
  • p.188-193「白人霊歌としてのシェイプ・ノート合唱」について
  • p.195-「南部の文化と音楽を理解するには、南部に根を下ろしたプロテスタント系教会の歴史と教義についての知識が必要となる」。諸宗派(バプティスト派、ペンテコステ派、ホーリネス教会、「楽器演奏、ダンス、歌」を特徴とした聖別派)についての記述
    • 「オルガンと聖歌合唱のバプティスト教会と違って、聖別派教会の礼拝ではドラム、シンバル、タンバリン、トライアングルなどの打楽器が使われ、週に数回、夕方から深夜まで続く歌と演奏は、教会の外からでもよく聞こえた」(p.203)
  • レコードを聞くという行為によって初めて身につけられる音楽家としての能力、というような視点はおもしろいかも p.249-250あたりに関連記述
  • ラジオの一つの特性として「社会階層によって楽しむ音楽の種類が異なったが、その社会格差を、ラジオは簡単に取り払ってす。自分のラジオであれ他人のラジオであれ、電波をキャッチする機械があれば、人種も階級も音楽の趣味も関係なく、ありとあらゆる種類の音楽を聴けた。ミュージシャンにも一般の聴衆にも、さまざまな種類の音楽を紹介したからだ。……/……作曲者の人種で曲を決めるわけではないので、ラジオから流れる音楽は結果的に「非人種差別的[カラーブラインド]」に音楽を広めた。」(p.263-264)
  • メモ:「霊歌(spirituals)」における「「繰り返し」とは、たとえば「どこに、ああ、ヘブライ人の子たちは、どこにいるのか」という歌詞を三度繰り返したのちに、「今は約束の地にやすらいで」という歌詞が続くというかたちをとる。「リフレイン」は、すでにできあがっている歌詞に、同じ文句の歌詞を数行つけ加えたものである。たとえば、「われは天の王国へ行かん/汝もわれとともに歓喜への道を/ハレルヤ、神をほめ称えよ」といった歌詞が連の終わりごとに歌われる。」(「ゴスペル―魂の高揚」 p.177 具体的には「白人霊歌」についての記述)
  • メモ:「霊歌はまた、個人や小さな個人の集団を大きな共同体へと包み込むような働きをする。ひとりの人間の喜びや悲しみが歌をうたう人すべてに共有されるための媒体ともいえる。ゆえに霊歌はきわめて個人的な感情を歌っていると同時に多くの人とその感情を共有している。霊歌を歌うことは、孤立した人間の苦しみを歌いながら、その苦しみを理解する多くの人々の温かさにくるまれるという不思議な体験をすることでもある。」(p.184-185)
  • 引かれていたマヘリア・ジャクソンの言葉=「ブルースは絶望の歌だが、ゴスペルは希望の歌です。ゴスペルを歌えば心の重荷から解き放たれます。過ちから立ち直るすべがあると思えるのです。ゴスペルを歌えばいつでも喜びを感じます。歌いはじめると、すぐに気持ちが楽になるのです。」(p.211,出典の記載なし)
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スティーヴン・ミズン『歌うネアンデルタール : 音楽と言語から見るヒトの進化』

  • 【早川書房, 2006, 訳:熊谷淳子, 頁数=492pp】 →amazon
  • (原著=Steven Mithen, The Singing Neanderthals: The Origins of Music, Language, Mind, And Body, 2005, →amazon/JP, →amazon/US
  • 【目次】[はじめに][1 音楽の謎――音楽進化史の必要性]《第1部 現在 [2 チーズケーキ以上?――音楽と言語の類似点と相違点][3 言語なき音楽――大脳、失語症、音楽サヴァン][4 音楽なき言語――後天性・先天性の失音楽][5 音楽と言語のモジュール性――脳内における音楽処理][6 乳幼児への話しかけ、歌いかけ――脳の成熟、言語学習、絶対音感][7 音楽は癒しの魔法――音楽、感情、医術、知性]》《第2部 過去 [8 うなり声、咆哮、身振り――サル、類人猿のコミュニケーション][9 サバンナに響く歌――「Hmmmm」コミュニケーションの起源][10 リズムに乗る――二足歩行と踊りの進化][11 模倣する性質――自然界についてのコミュニケーション][12 セックスのための歌――音楽は性選択の産物か][13 親に求められるもの――ヒトの生活史と感情の発達][14 共同で音楽を作る――協力と社会のきずなの重要性][15 恋するネアンデルタール――ホモ・ネアンデルターレンシスの「Hmmmm」コミュニケーション][16 言語の起源――ホモ・サピエンスの起源と「Hmmmm」の分節化][17 解けても消えない謎――現代人の拡散、神とのコミュニケーション、「Hmmmm」の名残り]》[訳者あとがき][参考文献][原註]
  • 「音楽を作る性向は、もっとも不可思議な驚嘆すべき、かつもっとも軽んじられている人間の特質である。本書の執筆を思い立ったのは、人間がこれほどまでに音楽を作り、音楽に耳を傾けずにはいられない理由について、持論を展開するためだ。音楽学はもちろん、考古学、人類学、心理学、神経科学などのさまざまな学問分野で近年明かになった証拠を集約し、その関連性を説きたいと考えた。」(「はじめに」より)
  • 「本書で問題にするのは、私たちが好む個々の音楽ではなく、ともかく私たちが音楽を好むという事実である。」(p.11) 音楽の普遍的能力について扱われる。「バッハなり、ブルースなり、ブリトニーなり、それぞれ好みお音楽はちがっても、私たちが音楽を楽しむのはなぜか」(p.20)を明かにする試み
  • 言語の起源・音楽の起源
  • 音楽にはどんな効用があるのか?
  • (生得的な)音楽能力の進化
  • 感情生活と音楽、音楽と感情との関わり、感情の表出・誘発
  • 「前言語的でことばによらない「音楽的な」思考や行動の様式」(ジョン・ブラッキング)
  • 進化史での説明。「音楽と言語の進化」。それと「人類の心・体・社会の進化との関係」
  • 進化と発達
  • 同調化現象(音楽に合わせた自然な体の動き)
  • 指示的と操作的
    • 構成的・指示的/全体的・操作的
    • ~な言語、~な発声、~な身振り
    • 全体的・・・「単語の組み合わせではなく完結したメッセージ」
    • 操作的・・・「他者に世界の物事を伝えるためではなく、他者の行動を操作するために用いられた」
  • コミュニケーション、社会生活における必要から進化
  • 身振り
    • 「音楽も言語も動きから切り離す野は得策ではない。音楽や言語の進化を理解するには、人体の解剖全体を考える必要がある。二足歩行が体の動かし方や使い方におよぼした影響は、ヒトの脳のや声道への影響とあいまって、人類史上最大の音楽革命を引き起こした可能性さえあるのだ。」(p.200)
  • 失音楽症
  • 楽器について
  • ピッチ、テンポ、メロディ、大きさ、繰り返し、リズム
  • 心の理論
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ブルーノ・ネトル『世界音楽の時代』

  • (勁草書房, 1989, 訳:細川周平) →amazon
  • (原著=Bruno Nettl, The Western Impact On World Music: Change, Adaptatin, and Survival, 1985)
  • 「本書は西洋の音楽文化が非西洋世界の音楽の伝統に与えた影響について、特に最近百年間の影響について扱う。要約と実例を通じて、この影響の一貫性と多様性を示そうと思い、あわせてこれまでの民族音楽学者の研究方法も検討しようとした。」「西洋音楽文化が伝統音楽や音楽生活――多くのサウンド、出来事、人々、概念、楽器、制度が含まれる――にぶつかった時に実に多彩な結果が生まれる」「文化交流的[インターカルチュラル]な接触の一部としての音楽の変化」「ささやかな要約の試み」「個人的に経験してきた文化から引いてきた実例に依存」「音楽の変化の複雑さの例で読者をいわば責め立てる任を負う」(「序」より)
  • 「この本にメッセージがあるとすれば……西洋音楽の到来は、世界音楽に均質化をもたらしたというよりも、実は二十世紀を音楽の大いなる多様性の時代とする手助けをした。」(同上) もちろん、コロニアル/ポスト・コロニアルなもんだいはあるにしても
  • 「ここ百年間の地球全体の音楽史で最も意味深い現象は、西洋の音楽と音楽思想がそれ以外の世界に及ぼした大きな力であった。確かにこの出来事の一つの重要な側面は世界の文化が音楽の伝統を維持したり、保存したり、変更したり、あるいは潜在的には放棄したりするために、無数の反応を示したことになる。しばしば西洋音楽の到来が世界の音楽の多様性にピリオドを打ったとされるけれども、その豊富な帰結を調べると、二十世紀の世界の諸音楽が、部分的には西洋の音楽文化によって作りだされた圧力の結果であり、かつてない多種多様な状態にあることが分かる。」(p.8)
  • 「ここで私たちが関心をもつ西洋と非西洋の音楽交流は、しかし世界の音楽の諸伝統が侵入に対してどう反応してきたのか、という面」(p.9)
  • 「アプローチ」「実例」「規則性」の三つのセクションから構成
  • テーマや事象で章立てされた全32章から成る「実例」セクションで扱われるのは・・・音楽体系のいろいろな部分への影響、楽器、伝達法、都市の制度、都市に特徴的なスタイル、宗教音楽、音楽の相互作用、保存と保護、音楽の境界

ヴァルター・ヴィオラ『世界音楽史 四つの時代』

中山康樹

  • 「記録」と「作品」
    • ライブアルバムでも「作品」として完璧なものもあるが
    • 「作品」を否定する後年つけ加えられたボーナストラック
  • 「名盤」
  • 連鎖、歴史
  • ジャズの音盤のディスコグラフィーにおける、録音年月日と発売年月日
  • 「かっこいいフレーズ」

ピーター・バラカン―魂のゆくえ

鈴木啓志―ブルース世界地図

  • 【晶文社, 1987, 頁数=306+30pp. ブックデザイン=平野甲賀】
  • 【目次】[はじめに][1 新たな視点からブルースを見る][2 奴隷制の再検討][3 ダンス音楽をめぐって][4 ブルースの誕生から定型化へ][5 ジャズ/クラシック・ブルース][6 ハード・タイムス以降のブルース][7 ジャズ/エンタテイナー/ブギ・ウギ][8 都市におけるR&Bの誕生][9 戦後のダウン・ホーム・ブルース][10 都会で育っていったR&B音楽][11 ロックン・ロールの時代とブルース/R&B音楽][注][あとがき][参照レコード]
  • ブルース音楽の構造
  • 個と共同性、個を共同性に結びつけるもの
  • 共同性における個の表現、としてのブルース
  • 歌、と演奏やビート
  • 個損的な、歌詞の内容
  • 奴隷観にまでさかのぼって「伝統的解釈」を批判的に検討
    • フォーゲル&エンガマン『苦難のとき : アメリカ・ニグロ奴隷制の経済学』の参照
  • 鈴木啓志『R&B、ソウルの世界』/

ネルソン・ジョージ『モータウン・ミュージック』

  • 謝辞, 序文/クインシー・ジョーンズ, イントロダクション/ロバート・クリストゴー, まえがき, 1:ビッグ・ドッグ, 2:モータータウン(一九二二~一九五二), 3:マネー!(一九五三~一九五九), 4:スターを探せ(一九五九~一九六二), 5:ヒッツヴィルISA(一九六三~一九六七), 6:夢を追って, 7:それぞれの道, 訳者あとがき, 索引, ディスコグラフィー
  • 巻頭に30pに渡る写真構成
    • 「私が尽きぬ興味を感じてきたのは、たとえばベリー・ゴーディーの一家の歴史が彼の価値観に与えた影響、モータウン・ミュージックとその作り手たち、また、その音楽の創造とスタイルの確立、そして発展の母体となった会社モータウンの内幕などだ。」(p.39)
  • →WhoNelsonGeorge

山下邦彦

トインビー-ポピュラー音楽をつくる

Sweet Soul Music

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ギュラルニック―ロックに棲むブルース

  • 『スウィート・ソウル・ミュージック』とはまた感じが全然違う本だな。
  • 「重要なのは、ミュージシャン達だ。どのアーティストも、筆者が長年に渡り、遠くからであっても尊敬し続けてきた人ばかりだ。私見では、誰もが意義あるアーティストで、万人の注目に値する。筆者がやりたかったのは、これまでなかった方法で彼らを描き出す、つまり彼ら自身の時代と世界のコンテクストの中に置くことだった。その世界がどうやって彼らを形成し、そのあと今度は彼らがどうやって自分達の世界を形成していったのかを探ってみたかったのだ。」(p.7)
  • →amazon, 1996, 大栄出版, the Roots of Rockシリーズのvol.3として刊行, 訳者=高橋佳代子・長束竜二
  • 原著=Feel Like Goin' Home, 1971
  • いくつかの時代・時間。描かれた時間も複数(ブルース再発見とか)、執筆時の時間、また現在読む人との(時間的な)距離、個人の経験
    • ギュラルニック自身の経験・時間・・・(以下第1章=「ロックン・ロール・ミュージック/成長と失墜」 p.9~37 より。この部分は、本書の全体から切り離しても読めるものとなっている)「・・・「エルヴィスが初めて成功を収めた時、筆者は12歳」・・・/「しかしそこでロックン・ロールは死んだ。狡猾な笑みを浮かべ、あたりを見回すチャンスすら来ないうちに終わってしまった。代わりに登場したのは、すべて合成の新製品だった。いわゆるロックのフィラデルフィア時代と呼ばれた時代に入った時、筆者はまだ9年生にしかなっていなかった。」「15歳にして我々は過去に逃げ込んだ。1年か2年前の過去に。」/ロックの代わりに聞いていたものの中で初めてブルースに出会う。「ブルースはまず、そのインパクトの直截さで筆者を魅了した。これほどまでにホットな感情表現は、初めての体験だった。」「ブルースが白人の聴き手までも魅きつけた理由はもちろんたくさんある。まずは人種の問題だ。我々の多くが黒人を知らなかった。それでも我々はお構いなしに、彼らの神話をこと細かに作りあげ、自分達が黒人ならこうするだろうと考えたイメージに沿った話し方や服装をしていた。ノーマン・メイラーが『白いニグロ』の中で彼らに魅かれる理由をうまく説明している。とにかく、かっこいいポーズだったのだ。しかしそれだけでなく、エルドリッジ・クリーヴァーが指摘した通り、ロックン・ロールは社会的な関わりをほのめかしたことに加え、それまでは表面に出てこなかった黒人のサブカルチャーを明白に容認してもいた。こうして我々――すくなくとも私や私の友人達が、本物の黒人音楽と黒人文化を採り入れるためのお膳立てが整った。/我々のロマンティシズムにとって、ブルースは恰好の題材となった。」「多くの場合、35年の年月を経たレコーディングのクオリティが、曖昧さのオーラを倍加した。歌い手の人生も謎に包まれていた。」(「しかし、何より音楽自体のヴァイタリティが大きかった。」)「我々の神話の中の幻影のような人物に会えるとは想像もしていなかった。サン・ハウス、スキップ・ジェイムス、ブッカ・ホワイト、スリーピー・ジョン・エステスといった人々が再発見されるなどとは夢にも思ってみなかった。魅力の一部は、彼らが過去の中に安住していることにあったのも確かだ。我々に関する限り、コンテンポラリーなブルース・シンガーは存在しなかった。自分達の読んだものや、思いこみに助けられ、カントリー・ブルースは第二次世界大戦によって静止したと我々は信じていた。」・・・そんな中(カムバックした?)実物のブルース・シンガーを目にするようになる・・・「ブルースは徐々に我々の情熱と音楽のすべて、我々の人生における重要な要素となっていた。古い友情を強め、新しい友情を生んだ。ブルースがいちばんの会話のきっかけや議論の対象だった。これは1961年から'62年にかけて、ポピュラー・ミュージックがほぼ例外なくばかにされていた時代の話だ」(「ブルースはその中では認められている方だったが」「一般にはそれがほぼ完全に当時のフォーク・リヴァイヴァルと結びついていた。フォーク・ブルースとさえ呼ばれ、ひよりよがりの不毛なイメージに取り憑かれた観客に対する主な魅力は、その確乎たる純粋さだった」「正当性はアコースティック・ギター、またはバンジョーその他の弦楽器の中にのみ存在すると考えられていた。」)「我々は平等と社会正義をむえんとする新時代の夜明けを思い描きながら、すべての音楽が平等に扱われる日を夢みた。」・・・「1963年、筆者はイギリスにいた。ビートルズが初めて大人気を得た年だ。」 筆者にとってえはビートルズの重要性は低く、それより「イギリス人がブルースとロックン・ロールをシリアスにとらえていたこと」が重要だった。「我々の成長はローリング・ストーンズのそれとほぼ平行していたようだ。」「ストーンズが我々のブルースとソウルに対する信念を再確認させただけでも、彼らは間違いなく教育的な役割を果たしたと言える。」 ここらへんからソウルが出てくねんな。「オーティス・レディング、ドン・コヴェイ、ウィルソン・ピケット、マーヴィン・ゲイといった名前」そして「ジェイムズ・ブラウン」のパフォーマンスの体験。「我々は何度もジェイムズ・ブラウンを見た。」「黒い顔の海の中の孤立した白人、手を打ち鳴らす友人達の中で、完全に浮いた集団として。/こういったショウを我々は儀式と見なし、最高の服装、最高のふるまいでのぞんだものだ。スピリットを全員総出で祝福するコミュニティの一員になるのは、一番はじっこにいただけだとしても楽しかった。あの世界の暖かさ、お互いを認め、挨拶をかわすことの興奮や生気……」「ほとんどの観客にとって、これは何より社交の機会なのだ。我々はといえば、あの世界の圧倒されるようなドラマにすっかり魅せられ、音楽と心の交流、何ら臆するところのないエモーショナリズムと壮観なパフォーマンスを楽しんでいた。」/「こういう雰囲気の中で、我々の居心地が必ずしもよかったわけえではない。最初の頃は大抵無視されていたが、オーティス・レディングが亡くなった頃になると、いよいよあからさまに敵視されるようになり、冷たい視線やひどい言葉をよく投げかけられたものだ。」・・・オーティスの死は67年のこと・・・「自分達の状況がどんどん危なくなっているのはよく分かった。」・・・そして68年に、マーティン・ルーサー・キングが暗殺される・・・「その晩、外出する気になれなかった我々は、そこから遠く離れた場所にいた。そして我々なりのやり方で、ひとりの男の死と、白人にも黒人と同じくらいに大きな希望を与えてくれた約束の死を悼んだ。」・・・・・・・・・さてさてさてさて、「ビートルズとローリング・ストーンズの大成功のおかげで、我々の昔のヒーローがすべて生き返った。スキップ・ジェイムズやサン・ハウスのみならず、チャック・ベリー、リトル・リチャード、カール・パーキンスも。」・・・筆者は、各地で彼らのパフォーマンスを見た・・・「そして不思議なことに、一度も失望しなかった。昔ながらの華やかさ、手なれた観客の扱いと、ヒステリアtろぎりぎりのところを漂い続けるプロらしいパフォーマンスは、我々の中に深く根づいた感覚にあやまたずアピールした。しかしそれも最後には効き目がなくなってしまった。」・・・「どのアーティストも、音楽以上に即席のノスタルジアを求める観客を相手にしなければならなかった。しばらくすると、昔のヒット曲を際限なく使い回すチャック・ベリーに、我々は興奮よりも落胆を覚え始めた。パフォーマンスの高揚感やすべてを心得たステージ・アクトにもかかわらず、音楽そのものから否定しようもない苦々しさが滲み出ていたのだ。」・・・「リヴァイヴァルの試みが、すべて失敗を運命づけられていること」・・・それは「現在、キャンプなものになってしまった」・・・「すべてを摩滅させる時間の恐るべき力」・・・「ロマンスはいつか色あせる。理由はいくらでもあるだろう。」=「年を取ったこと。音楽について書くようになったこと。かつての理想主義が潰えてしまったこと。音が恐ろしくあふれ返っていること。単純に、知りすぎたこと。」
  • それにしても、このうような話がまず置かれた上で、メインの部分がはじまるってのは・・・作者の意図なのだろうねえ・・・

カイル『アーバン・ブルース』

ポピュラー音楽理論入門

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  • 増田さんのコメント
  • この本へのこちらのコメントにある、「実際この世には、存在すること自体が不思議なレコードが存在するのだ。そしてそうしたレコードの存在に当たっては、誰かしら、いわゆる音楽業界の人間が関わっているはずなのだ」 というようなことは、ぼくも考えることがあるなあ。考えるというか、思いをはせる、存在について想像するという感じか。「不思議なレコード」に限らず、直接音をつくることに関わる以外のレコード制作・流通に関係する仕事について。
  • [1 聴衆 Audiences]
  • [2 産業 Industry]
  • [3 媒介 Mediations]<ラジオによる媒介:伝達技術の発達><レパートリーの秩序づけ>番組編成、選曲・編成の独自の形式の導入、発明→制度化・「一九二〇年代から一九三〇年代にかけて、ラジオが音楽演奏の放送を開始する」・音楽出版社、レコード会社からラジオ局への働きかけ、自社の音楽をかけてもらうようにという・聴衆の(経験の)セグメント化<p.131 コミュニティと海賊:同じテーマの変奏曲>海賊局<p.134 ラジオによる音楽の媒介:まとめ>「媒介の三つのプロセス」=「伝達技術」「仲介活動」「社会関係」(局の性質のいろいろ、局同士の作用など)<音楽ビデオ:サウンドと動く映像の媒介>音楽のカタログ化の一つのあり方・「ポピュラー音楽のサウンドtイメージのあいだの媒介」
  • [5 歴史 Histories] 「本章では、とくにいわゆる「ロックの時代」に注目しながら、ポピュラー音楽の歴史を記すということについて、いくつかの疑問を投げかけてみようと思う。」「音楽的対話」「複数の歴史」<頂点:『サージェント・ペパー』>実際にこのアルバムの曲を取り上げながら、別の読み(解釈)を示してみせている「……このアルバムを「高級」芸術であるとする主張に対して、その「なんでもなさ」を強調すること……同時に、私は、このアルバムが単なる「ロックアルバム」以上のものである、ということをも指摘してきた。/……このアルバムは単にロックファンだけによって聴かれたわけでもない。このアルバムは世界中のさまざまな世代の、無数の人々によって聴かれたのである。」「辿ってきた経路[ルーツ]」
  • [6 地理 Geographies] 「ポピュラー音楽の地理的な媒介[メディエーション]を分析する際に有効な、理論的視座」の検討・
  • ラジオのリスナー・ミュージシャン・演奏家・音楽出版社・音楽プロモーター・バンド・歌手・レコード会社・ラジオ局の放送従事者
  • サウンドの移動
  • 配給
  • 音楽学的な議論


トインビー-ポピュラー音楽をつくる    スウィート・ソウル・ミュージック    Everything But the Burden    音楽未来形
  • http://d.hatena.ne.jp/smasuda/20050214 より

    ★増田聡・谷口文和『音楽未来形――デジタル時代の音楽文化のゆくえ』/2005年2月25日、洋泉社より刊行予定。定価1995円(税込み)。ISBN:4896918991/iPodに音楽配信、DJカルチャーからサンプリング・ポップ、著作権問題まで、21世紀に入って劇的に変容しつつある音楽環境の諸相を「音楽テクノロジーの多層化」の視点から的確に位置づけ理解する、音楽文化論の最前線。/作品概念や聴取、あるいは音楽の経済構造やオリジナリティをめぐる従来の捉え方をラディカルに更新し、「未来の音楽」を預言する透徹した思考(かなーり嘘)、待望の登場!

    • ・・・いやーん、こっそりメモしただけなのに勝手にトラックバックが送られちゃったー
  • Leroi Jones Blues People: Negro Music in White America [1963] = 新訳 リロイ ジョーンズ 『ブルース・ピープル』 [2004] 「生身[なまみ]の肉体の底から沸き上るあの音楽以前の感情的共鳴」「黒人音楽の感情的源泉」
    • ジョーンズ 『ブラックミュージック』 [晶文社, 1969] = Black Music [1967] これはジャズ論だったか/最後の章=「変わってゆく同じもの(リズム・アンド・ブルースと新しい黒人音楽[ニュー・ブラック・ミュージック]」
  • Simon Frith
  • WhoNelsonGeorge ネルソン・ジョージ

  • こちらのページ一番下に、鈴木哲章さんの、1998年のベスト音楽本のリストが。
  • WhoNelsonGeorge

読んだことないし、評価は分からないが Todd Boydamzn 著書に《The New H.N.I.C: The Death of Civil Rights and the Reign of Hip Hop》など。この人について触れられている、hip-hop aとacademyの関係について扱った記事「Foucault's Turntable; Hip-Hop Scholars Bumrush the Academy」lnk Nelson George, Greg Tate , David Toop and Tricia Roseなどへも言及。

鈴木哲章さん97年の文章lnk

ロックとは、ロックンロールとちがって、自分たちの形式は芸術だという自意識を持った、どこかわざとらしさのつきまとう音楽であり、サイモン・フリスが喝破したように、アンチ・コマーシャリズムというコマーシャリズムの音楽、そういうポーズを売り物にしてきた音楽のことだ。97年は、そんなロックの仰々しさをUKのギター・バンドが独占した年でもあった。オアシス、レイディオヘッド、スピリチュアライズド、ヴァーヴと、その大元の親玉であるU2といったUKギター・バンドは、大言壮語をもったいぶってわめきちらすロックの鼻持ちならない気取りの家系を見事に受け継いでいる。彼らはロックの「前衛」を自負し、エレクトロニカと連動して、伝統的なソングフォームの束縛を壊すと誓った。しかし、実際は、伝統的な形式の束縛を壊すどころか、それを単にダラダラと引き伸ばしただけの、締まりのないソングフォーム、大げさで陰気な音作り、自意識過剰の詞からなるロック・メロドラマという、アメリカの概念で言うなら、AOR(アルバム・オリエンテッド・ロック)の特徴を見事に受け継いでいる。

Greg Tateの本。というか、編集した本。

#amazon(076791497X)

ジャケ写真は「a white boy in baggy jeans」lnk


http://homepage3.nifty.com/MASUDA/index.html


  • Mark Anthony Neal 《What the Music Said: Black Popular Music and Black Public Culture》 未読
    • 鈴木さんがページで挙げておられた。酒井さんも昔の10+1の連載で参照されている、
#amazon(0415920728)
  • ↓この現代思想の特集には、酒井隆史が対談を日本行っている。一本の相手は、BMRの編集長の肩書きの岩間慎一という人なのだけど、レコードを知っているだけじゃなく、文化・経済面やメンタリティーのことなどもわりに詳しい感じ。今もこの人が編集長やってるのかな? おそらくこの雑誌が出た後に、大きくリニューアルしたはずだから、もうやってないのか。
  • http://www.triciarose.com/ トリシア・ローズ
    • 現代思想のブラック・カルチャー特集に、翻訳が一本あり。 -> 「手に負えないスタイル――ヒップホップにおける政治、スタイル、脱工業都市」(原題"The Style Nobody Can Deal With : Politics, Style and the Postindustrical City in Hip Hop", [1994])
    • 大学の図書館にあるもの 
      • 《From Sociology to Cultural Studies: New Perspectives》に収録 -> Rewriting the Pleasure/Danger Dialectic: Black Female Teenage Sexuality in the Popular Imagination By Tricia Rose
      • 《Talking visions : multicultural feminism in transnational age》収録、 "2 Inches or a Yard: Censoring TLC"
      • 《Microphone fiends : youth music & youth culture》edited by Andrew Ross & Tricia Rose 上の現代思想掲載の論文が入っている本
  • 《Language, rhythm, & sound : black popular cultures into the twenty-fir st century》収録の"Cultural Survivalisms and Marketplace Subversions: Black Popular Culture and Politics into the Twenty-first Century" が見てみたい気がするが、大学にはない。
  • 『LADY SOUL―ブラック・ビューティ・ミュージック・ガイド』[2003] amzn こんな本が出ておったのか、知らんかった。どうなんやろ。
  • Robert Christgau http://www.robertchristgau.com/index.php 鈴木さんが何回か参照しているポピュラー音楽について書いている人。翻訳はないのかな。なさそうだけど。
  • Bill Brewster and Frank Broughton 《Last Night a Dj Saved My Life: The History of the Disc Jockey》
  • サイモン・フリス 『サウンドの力―若者・余暇・ロックの政治学』 Simon Frith 《On Record: Rock, Pop, and the Written Word》
  • 野田努 『ブラック・マシン・ミュージック―ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ』 [2001]
  • Nelson George 《The Death of Rhythm & Blues》
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