4140910100.09.MZZZZZZZ.jpg

ピンカー『人間の本性を考える』/「……進化生物学者は私たちに、人びとの幸福につながる集団の団結、暴力の回避、一夫一婦の単婚、美的快楽、自尊心などを「適応」と考えるのが誤りであるこを教えてくれる。日常生活で「適応的」であるものは、かならずしも専門的な意味での「適応」――種の進化史において自然淘汰によって選好された特性――ではない。自然淘汰は、もっとも効率のいい自己複製子[遺伝子]がほかのものを繁殖でしのぎ、集団内で優勢になるという、道徳とは無関係のプロセスである。したがって淘汰によって選ばれた遺伝子は、リチャード・ドーキンスのメタファーで言えば「利己的な」遺伝子である――より正確には、自己自身のコピーをもっとも多くつくる、誇大妄想者のような遺伝子である。適応は、遺伝子によってもたらされ、遺伝子がメタファーとしての強迫的願望を充足するのに役立つものであって、人間の願望も充足するかどうかは関係がない。これは、人間の能力はなんのためにデザインされたのかということについての日常的な直感とは著しく異なる概念である。/遺伝子が誇大妄想者のようであるといっても、だから好意や協力関係が進化できないという意味ではない――重力の法則があるから、飛行能力は進化できないとは言えないのと同じである。これが意味しているのは、好意は空を飛ぶのと同様に、なんとなく起こる何かではなく、説明を要する特別な事態だということである。好意が進化できるのは特定の状況においてのみであり、一連の認知力と情動のささえを必要とする。したがって好意(やそのほかの社会的動機)は、あってあたりまえのものととらえてしまわず、スポットライトのもとに引っぱりださなくてはならない。……」(上巻 p.111-112)

  • 生物学と文化を(また精神と物質を)つなぐ架け橋(上巻、第三章 ゆらぐ公式理論):
    • 1.認知科学(心の科学)/認知革命の5つのアイディア:心の計算理論|心はブランクスレートではありえない(ブランクスレートは何もしないから)|無限範囲の行動は、心の有限の組み合わせプログラムから生じる|普遍的な心の機構が存在する可能性(そこから諸文化の表面的な多用さが生まれる)|心は相互作用をする多数のパーツから構成される複雑なシステムである(心はモジュール方式)
    • 2.神経科学・認知神経科学(認知と情動が脳のなかで実行される仕組みを研究)
    • 3.行動遺伝学(遺伝子が行動におよぼす仕組みを研究)
    • 4.進化心理学(心の系統発生史と適応機能を研究)
  • 文化を人間本性の科学に結びつける・学習や文化や社会化がどう働いているか解明するために、心の生得的な能力に注目する
  • 文化(また社会学)の話。個人(の心理)と集団。「文化の心理学的ルーツ」。「文化は生活の道具」、「文化が人間の欲求を形成するという見かたではなく、文化を人間の欲求の産物と見なす見かた」
  • ー>「したがって歴史と文化は心理学にもとづかせることができ、心理学は計算論、神経科学、遺伝学、進化論にもとづかせることができる。」(第四章 文化と科学を結びつける)
    • トマス ソーウェル(Thomas Sowell)、ジャレド・ダイアモンドの議論
  • 攻撃性のデザイン
  • 「暴力は社会的、政治的な問題であって、単なる生物学的、心理学的な問題ではない。しかし私たちが「社会的」「政治的」と呼ぶ現象は、太陽黒点のように、人間にかかわる諸事に謎めいた影響をおよぼす外的な出来事ではない。所与の時間と場所において個々人に共有される理解である。したがって人間の心を十分に理解することなしに暴力を理解することはできない。」 下巻 p.72
  • 暴力の論理、暴力を専門にする情動や思考が進化したと考えられる理由
  • 暴力的な本能
  • ・・・どのようにあって欲しい/○○○だと信じたい、ということと、実際どうなのか、ということ(前者の頭に道徳的に、と付けてもいいか)。
  • 「みんなは何に対してそれほど過敏になっていたのだろうか?」
  • 「そこにあるのは価値判断であって、科学的な分類ではない」
  • 「なにしろ道徳性は、ビッグバンとともに宇宙に登場して背景放射線のように拡がったわけではない。何十億年にもわたる、自然淘汰という道徳的に中立なプロセスののちに、私たちの祖先によって発見されたのである。」
  • 社会構築主義、脱構築的な言説への批判
  • 超有機体という教義=「集団(文化、社会、階級、ジェンダー)は独自の利害と信念体系をもつ一つの生きものであるというこの教義は、マルクス主義の政治哲学や、デュルケームにはじまる社会科学の電灯の背景をなしている。」(下巻 p.279) 「それは、個人というもの(喜びや苦しみを文字どおり感じる唯一の存在)を、全体の利益を推進するために存在する単なる構成要素として片づけてしまう」
  • 14章 苦しみの根源はどこにあるのか/トリヴァースの議論

intersection